【企業分析】6571 QBネットHD/中期経営計画発表、また値上げされるのかな、、

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2022/8/18、1,000円カット(実際には1,200円ですが)チェーンQBハウスを運営するQBネットHDが中期経営計画を発表しました。

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS03629/bf0faa7f/2bbe/41f9/9a84/8bdab8a7defd/140120220816520963.pdf

中計をぱらぱら見ていると、従業員への待遇改善を目的として価格改定(値上げ)を検討している旨が記載されていました。月に2回利用するヘビーユーザーからすると少しつらいものがありますが、投資家目線でみるとその値上げが顧客から受け入れられるのか?ということを見極める必要があります。ちなみに、まだ値上げを正式発表したわけではなく、価格改定に向けたプロジェクトを立ち上げると言っているにすぎない点はあしからず。

なお、当ブログにて、美容業界に属するAB&Companyを以前に取り上げていましたので、そちらも合わせて読んでいただけるとありがたいです。

QBネットの事業戦略

QBネットの戦略は経営戦略の教科書にたびたび取り上げられる秀逸なものです。従来の理容室が提供していたフルサービスのうち顧客が自分でもできる髭剃りやシャンプーやセットを取り除き、真に顧客に価値のあるカットのみを提供することで、顧客には安さと早さという価値を提供し、単価が安くても顧客の回転率を上げることで店舗運営にかかる固定費を回収する。そして駅中やショッピングセンター内にという立地を先に確保することで競合に対する優位性を有する強固なビジネスモデルです。

QBハウスは「1000円」カットでなくても利用価値はあるのか? | GLOBIS 知見録
10分ヘアカットのQBハウスを展開するキュービーネットホールディングスが、2019年2月より通常料金を1080円から1200円に値上げすると発表した。同社によれば、人材確保が難しくなる中で、現場スタッフの待遇改善などが狙いだという。発表から1ヵ月ほど経つが…

QBハウスのビジネスモデルは誰でも簡単に模倣できる印象があるかもしれないが、現実は異なる。QBの優位性の1つが、店舗立地である。ショッピングセンターや駅や空港の中にテナントとして営業しているケースが多く、こうした場所に競合店が後から入り込むのは難しい、立地の優位性によって、QBハウスはそもそも競争の多くを回避できている。

もう1つの模倣困難性は、従業員(スタイリスト)のスキルである。筆者は以前、あるプロジェクトの一環でQBハウスのサービスを詳しく調査したことがあるが、10分ジャストでカットが完了する率など、サービス品質向上の取り組みにおいてQBハウスは競合を圧倒している。詳しくは割愛するが、ロジスカットと呼ばれる半年間の研修プログラムやデータを活用した厳格なサービス品質管理体制など、独自の仕組みが同社のサービス水準を支えている。残念な10分カット体験に終わる確率を減らしたければ、QBハウスを選択することが理に適っている。

QBハウスは「1000円」カットでなくても利用価値はあるのか? | GLOBIS 知見録

QBネットの直近の課題

直近の決算にて、従業員(スタイリスト)の退職率が上昇し、従業員数が減少しているという課題が発生しているようです。店舗にスタイリストがいないと顧客を早く回転させることはできず、利益獲得の妨げになってしまいます。

ここで、従業員の退職率が上昇した理由は何なのでしょうか?会社資料によると給与面の待遇に問題があるように書かれているのですが本当にそうなのでしょうか。低い給与だからみんな辞めていく、だから打ち手として給与を上げよう、そのための原資として価格改定(値上げ)を行おうという流れなわけですが、本当に給与面だけが原因でスタイリストは辞めているでしょうか、スタイリストは辞めてどこに行くのでしょうか。スタイリストの給与水準が低い点はAB&Cの記事にも書きましたが、QBハウスはこれだけ仕組み化され他のコストが抑えられ規模の経済も働いている会社ですので、他社よりも給与原資は多いはずです。実際にQBハウスと他社の給与水準を比べたわけではありませんが、転職してもこれ以上の給与水準を求めるというのは厳しいものがあります(他業界に転職している?)。従業員が辞める原因はお金だけではないはずですので、その点きちんと分析し課題を特定したうえで昇給という打ち手を選んだのか、そのあたりも資料に触れてほしかったですね。とはいえ、給与水準が低い業界ですので、最低限の賃上げで人を引き留めるということは必要でしょう。

出典:2022年6月期通期実績及び中期経営計画

QBネットの中期経営計画

中期経営計画の全体像はこんな感じです。

出典:2022年6月期通期実績及び中期経営計画

とりわけ注力しているのは人財の部分です。給与UPによる待遇改善で退職率を下げ、従業員の定着をはかることが戦略として記載されています。そのための原資として価格改定が必要ではないかという話の流れです。ここからは価格改定の是非について考えます。

まず人件費高騰をサービス価格に転嫁できるのならそれに越したことはありません。一方で、値上げによる顧客離れというのも怖いです。単価と客数の掛け算で売上高が決まりますが、もし売上高が維持できるなら客数が減ってスタイリストの負担も下がる効果があるかもしれません。

QBハウスの顧客が何を求めているのかを考えると、私の場合は「安さ」と「早さ」です。値上げにより安さによる満足度は下がりますが、早さが上がるのならば私はちょっとくらいの値上げは許容できます。先日QBハウスの店舗に行ったときに約30分待たされました(しかも店舗の外で。お店は小さいですからね)。その日は土曜日でしたがお客さんは多いものの、座席は3つのうち2つしか稼働していませんでした(スタイリストは2人しかいなかった)。スタイリストが増えれば待ち時間も減ると思いますし、研修の充実によりスタイリストの技術向上が図られるのであればカット時間の短縮などで顧客のメリットも大きいように思います。中計にも「ユーザーエクスペリエンス向上」と書かれていますが、ホントこのあたりよろしく頼みます!

出典:2022年6月期通期実績及び中期経営計画

QBネットの人件費(IFRSの人件費開示)

QBネットは会計基準にIFRSを採用しています。IFRSだと日本基準で求められていない人件費の開示が求められる点は非常に良いです。日本基準だとコストの性質別分類がないため、コスト構造の分析が非常に困難です。

1年前のデータになりますが、QBネットはコストの半分以上は人件費が占めます(2021/6期にて、売上原価と販管費合計が約188億円に対して人件費は106億円と約56%が人件費です)。

出典:2021年6月期有価証券報告書

理容業界の将来についての雑感

QBネットの中期経営計画は人財を中心に据えるものとなっています。最近のトレンドでもありますが、コストの半数強を占める部分であり財務的にも大事な部分です。

理容室業界の将来を考えた時に、QBハウスの将来の見通しとしては非常にネガティブにならざるを得ないと個人的には考えています。理容室はオートメーション化が出来にくく、カットの部分はどうしても人に頼らざるを得ない労働集約型のビジネスです。その人の仕事の部分に効率化を求めていくと、どうしても働く人(スタイリスト)にとって仕事の面白みやモチベーションを感じにくくなっていくのではないでしょうか。だから給与面の待遇を良くしないといけないのかもしれませんが。

先日QBの店舗でスタイリストの仕事ぶりを見ていると、次から次に流れてくる顧客の髪をカットして、顧客と会話するわけでもなく、同僚とも会話はしない。顧客側にかっこよくしてほしいというニーズもなく、スタイリスト側からも積極的な提案もない、ただ1カ月で伸びた分の髪を切るだけ。工場のライン工のような仕事に見えてしまいました。一方で昔実家の近くにあった床屋では店主が常連客と世話話でもしながらフルサービスで長い時間をかけて顧客と向き合いながら仕事をしていました。

ただの印象論かもしれませんが、QBでの仕事は機械に置き換えられない単純作業のような感じがしてなりません。給与という衛生面を改善させても、スタイリストの動機付け要因にはなりえません。どのようにして従業員のモチベーションや満足度を高く仕事ができるようにするのか、また企業の利益と共存するのか、今後のQBハウスの動向には注視が必要です。(この銘柄を買うかは察し

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