本日2021/3/26、出前館が2021/08Q2決算を発表しました。それと同時に約10億円の減損損失の計上を発表しましたが、これが、これまであまり見ない減損でした。
近年SaaSとかPaaSとか新しいビジネスモデルの会社が増えており、それを従来の制度会計の枠組みで測ろうとするといろいろと不都合というか、不整合が出てきている。今の制度会計の限界が近いのではないかと感じて記事にしました。
出前館のプレスリリース
まずは本日発表したプレスリリースの内容から。なんと当期に取得した固定資産を即減損したというのです。

何を減損したんだ?と気になったので、同日発表の決算短信を見てみました。
以下BSとPLとCFは、本日発表の出前館の「2021年8月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」からの抜粋です。
無形固定資産(おそらくソフトウェア)を取得して、いったん投資活動CFに計上し、そして即減損しているということがわかりました(なのでBSはほぼ動いていない)。



ソフトウェアって何を開発しているのだろうと思って調べてみると、2020年3月26日(ちょうど1年前の今日です)にLINEから300億円の資金調達をした際のプレスリリースに、その資金の使途としてシステム開発について書かれていました。

ちなみに、あと2年こんな感じのシステム開発→減損という10億規模の特損が続きますね。
投資即減損に感じた違和感とその後の納得感
何に違和感を感じたのかというと、その減損って特別損失なのか?という点です。
特別損失は通常の営業活動から外れ、臨時的で異常な場合に計上するものです。特別損失なのだとすると、それが何年も続けて発生する(かどうかはわかりませんが)とか、毎期損失が出ることをわかってシステム投資するというのにも違和感を感じました。
従前からある製造業なら工場を建てて、小売業ならお店を建ててと、それを「投資」と呼んで固定資産に計上し、投資活動CFに計上していました。一方で最近のSaaS系のソフトウェア企業なんかは、調達資金を広告宣伝などに「投資」し、知名度・ユーザーを獲得し、初めは赤字でも規模が大きくなるにつれて高い限界利益を活かして一気に利益を出すようなモデルです。ここでいう広告宣伝費などの投資はもちろん「投資」ですが固定資産には計上しません。PLに計上して、CF上も営業活動CFとして消えていきます。同じ投資でも違うのです。
ではこの2つの投資の何が違うのか?それは資産に投資しているのか、経費に投資しているのかの違いです(資産か経費かの切り口で分類)。もう少し言うと、”収益の獲得確度”の違いだともいえます。
工場建設や店舗建設はある程度の将来の収益獲得の絵が見えています。その場合、建設費を固定資産として計上したうえで、減価償却を通じて、将来の収益に対応させていくことが妥当です。一方でSaaSなどソフトウェア企業で行われる広告宣伝による投資は、それがどれほど将来の収益獲得に貢献するかが不明です。もちろん将来の成長のために投資するわけですが、不確実性は高いと言えます。出前館だって、UberEatsやDiDi、foodpandaなどライバルは多く、勝者1社の総取りが常のプラットフォームビジネスで今後生き残り、収益獲得できるかは誰にもわからないというのが正直なところです。
そのため、収益獲得が不透明な費用は将来に繰延るのではなく発生時の一時の費用にしてしまう。製造業でも行われる研究開発活動と同じですね。
最近は資産に対してではなく、経費に投資するというビジネスモデルが多いですね。
今回の出前館のソフトウェア投資に関しては、システムという資産に対する投資であるものの、経費の意味合いが強く、将来の収益獲得(要するに投資の回収)が不確実性が高いということから、取得して即減損したということです。だったら取得に要した費用を営業活動の中でPLに計上したらいいじゃん、出前館の300億円投資の中の広告宣伝活動と同じように、絶対にその方が実態にあっている。と思うのですが、今の制度会計では、ソフトウェアなのでいったん固定資産に計上したうえで、減損の枠組みで即時に減損損失を計上する他ない、ということなどだと思います。特別損失という大きな違和感を伴うものですが、、
結局、特別損失だからと言って、特別に扱うのではなく、バリュエーションを行うときは自分の頭の中のスプレッドシート上で販管費などに組み替えて考える、という柔軟な対応が必要なんだと思います。PLだと違和感はありますが、キャッシュフロー上だと営業活動でも投資活動のどっちでも結局FCFを構成するのでどっちでも一緒かという気もしました。
もっと身も蓋もないことをいうと、結局、業種を超えて企業を比較することなんてほぼないんだから、どっちでもいい(大きな問題ではない)んじゃないの、ということなのかも、、、
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